• Avocat Japonais à Tokyo

 私は語学オタクである。堪能では断じてないものの、とりあえず苦手意識はない。

 英語、フランス語、スペイン語が公用語の大会とはいっても、まずは英語だろう、ということでAdvanced Grammar in Useという英文法のドリルを解き始めた。

 と、同時に、今まで一行たりとも読んだこともなく、一単語たりとも知らないポルトガル語に興味を覚えて、旅の指差し会話帳と定番のガイドブックを買い込んだ。

 パラパラと会話帳を捲ってみると、これがまたよくフランス語に似ている。

 ポルトガル語の音を聴いたことがないので、ポルトガルの方から話しかけられても聴解できないことは間違いないが、字面だけ見ると、何についての話なのか非常によくわかるものが多い。

 私は、2016年から2018年まで、ロシア極東大学函館校というロシアの大学が市民向けに提供するロシア語講座を3年間受講したが、この日初めて目にしたポルトガル語のほうがはるかにとっつきやすく感じた。

 ポルトガル第2の都市ポルトの街並みも魅力的なようだし、何よりワインが旨い土地らしい。外国語を勉強する理由を問われれば、「旨いものに巡り合う確率を上げるため」と躊躇なく応える。

 同期が開設した法律事務所に転がりこんだ平成30年10月は、上記のようにポルトガル(さらにスペイン)旅行の空想と語学学習に耽る内に過ぎ去っていった。

 さて、2018年10月28日、成田空港に向かうべく、必要以上に早く自宅を出た私は、池袋駅のホームのベンチに座り、漫然と成田エクスプレスを待っていた。始発待ちだったのか、私から3席離れて座っていたウインドブレーカー姿の男性が、おもむろに立ち上がると、盛大に吐瀉。その後、何事もなかったかのように、また同じベンチに座った。

「オールで飲みすぎたか何かだろう…ノロではありませんように…」

 いや、仮にあれがノロウイルス由来のリバースだとすれば、畢竟私もユーラシア大陸の上空、イベリア半島でリバースに次ぐリバースではないか、とこれまでに抱いたスペイン・ポルトガル旅行の妄想を粉々にされた心境だった。

 また、成田空港に到着すると、私がスペインに向かうために登場する飛行機が、落雷を受けたため、絶賛整備中とのことだった。非常に雲行きが怪しいものの、「やっぱやめます」というわけにもいかないので、漫然と搭乗時間を待ち、イベリア航空に搭乗した。

 12時間にわたるフライト時間は、帰国する陽気なスペインの方々に囲まれて過ごした。よく赤ワインを飲むなぁ…

 直前までフランス語の勉強でもしようと思っていたが、結局は「地球の歩き方スペイン」に目が行ってしまう。スペインも楽しそうだなぁ…

「そうかそうか空港はアエロプエルトかー」

 12時間のフライトで完全にグロッキーな状況だったが、地下鉄8号線でヌエヴォス・ミニステリオスまで行き、地下鉄10番線でアロンソ・マルティネス駅まで行き、地下鉄4号線でヴェラスケス駅に到着した。

 うん、チョト怖いね…

 私は地図を読むのが苦手である。ちょっとした地図でも、「これどっちを上にしたらいいんだ?」となる。グーグルマップのナビでも意味が分からなくなる。

 事前に地球の歩き方のマップには、ここが初日の宿だと印をつけていたが、やはり迷う。落書きが施された建物を見ていると、北斗の拳的悪党が登場しないか不安になる。

  やっとこさたどり着いたホステルは、かなり湿っぽい部屋に2段ベッドが詰め込まれたドミトリー式。こういう相部屋に泊まること自体初めての経験だった。

上の写真の左手側に、結局いくつの2段ベッドがあったのか、おそろしくて覗かなかったため、私は知らない。というのも、この写真の左手には、鍵束をチャラチャラ鳴らしながら、ひたすら独り言を続ける謎の男がいたからである。

 フロントで借りたシーツを枕、ベッドにつけると案外快適に眠れそうだった。

 貴重品を小さなショルダーバッグに纏めて眠りについた。