ベッソン師から指定されたテキストは、読解部分のテキストも読み物として比較的面白かった。
語彙が不足しているため、リスニング対策同様、分からない単語にぶつかるごとに、これまた使い込んだ仏和辞典にピンクのマーカーを入れていった。
これによって、基礎体力がついたような気がしたので、公式問題集をのぞいてみた。
試験対策の方向性を誤っている気がした。
フランス語の文章を読んでも、フランス語の会話を聞いても、日本語がちらついてしまう。
特に、聴解の問題に取り組んでいると、オセロの駒を順々にひっくり返すように、頭の中で日本語に置き換えようとしてしまうようだった。
全部日本語に置き換えることができるのであれば問題は小さいが、一つでもつまずくと以降壊滅的に意味がとれなくなってしまう。
原因は明らかに仏和辞典の引きすぎだった。かといって、一切辞書を引かないでフランス語のテキストに取り組んでも語彙が増えるとは思われない。
また、文書作成パートの問題と解答例も見たが、この問題文からこのようなフランス語らしい文章が自分から生み出されるわけがないと感じた。ここに至って試験対策はドツボに陥る。
この状況を打開したのが、下の新聞だった。
そもそも、DELF B2は、読解でも文書作成でも、新聞記事のような文章を読み、書くことが求められている。
そうであるなら、そもそもフランス語の新聞を読むのが一番対策になると思われた。
私が一方的に恩師認定している中村紘一教授の最終講義PDFを読んでいると、辞書を引き引き1か月ルモンドの日刊を読んでいたら、ふと辞書なしに新聞が読めるようになったと書いてある。
そこまではいかないまでも、上記の新聞を毎日の通勤時間に読むことを続ければ、試験時間中に沈黙するという事態だけは避けられそうな気がした。
ただし、仏和辞典を分からない単語ごとに即引くのはよくない。ただ、一切引かないというのも語彙が増える気がしない。
そこで、私は、インテリジェンスごっこと称して、意味が分からない単語を電車内で記憶して、事務所について覚えていたもののみ辞書を引くことにした。
仏和辞典をその場で即引く場合と比較して、フランス語の単語をそのまま頭に留めておく訓練をしていたのだと思う。
残念ながら、暗記しようと思った単語は、駅から事務所まで歩く間に多くは忘れてしまった。ただ、事務所まで暗記を続けられたものについては、比較的記憶への定着率が良かった気がする。
逐語的に、即仏和辞典を引くと、仮に内容が頭に残ったとしても、それは日本語の情報として残るだけで、フランス語力を向上させることにはつながっていなかったのだった。
また、電車内では意味が分からなかった単語も、駅から事務所まで歩く間に、似た字面の英単語からの連想で意味が分かることもあった(tuberculoseとか。)。
DELFの問題集はほっぽり出してしまったが、このインテリジェンスごっこを毎日続けるうちに、何とかなるような気がした。
私は、時間ギリギリに裁判所に行くとか、そういうことが好きではない。意味もなく30分は1時間前に裁判所に到着することもよくある。その間、上記の新聞を持ち歩いて読み、インテリジェンスごっこに励んだ。裁判所の待合室でフランス語の新聞を読んでいる弁護士がいるとしたら、それはたぶん私だと思われる。